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ALADJINを聴覚障害児教育の領域から読み解く

総括

大沼/それでは、総括のほうに移ります。資料の中に、聴覚障害児と親から見たクリティカルパスとアウトカムの必要性というのがありますか。福島智先生、児玉眞美先生と私で、クリティカルパスという概念を、早期教育からの問題解決に取り入れようと考えています。最初は経済用語からスタートした言葉で、経済性をあげるためのコンベアシステムなどができてきて、医療ではクリティカルパス、入退院を能率的にやって患者のムダをなくすという概念になっています。それを聴覚障害児が新生児スクリーニングで発見されてから乗っていく過程までうまく取り入れようというもの。最近は地域連携型クリティカルパスという用語が使われます。正に1機関のみで1人の親子に対するパスを作っていくという考え方をやめて、連携型でやっていく。それには何が必要か。親は難聴児を出生して、どんなイベントにぶつかるかなど、経路を前もって把握して、親も含めて自分たちに自己決定しゴールをめざし、専門家が協力していくという概念を考えています。これもまたご紹介できると思います。

 我々が何かをやろうとすると葛藤せめぎ合い、コンフリクトが起きます。智先生が出だしでガチンコで議論しようといいましたが、コンフリクトは悪いことではなく、バリアフリーをしようとすると、一方の人はこれがよいことでこれを実現しようとすると他方に迷惑になるという面があります。こうしたバリアフリーに伴うコンフリクトは覚悟する。これがあるものだという中で、もっと上にいく。互いの主張でダメになってしまう。このあたりを救うにはバリアフリーコンフリクトという概念がよいのではと思います。

 それでは、福島智先生の総括をお願いします。

福島 智/邦博先生、今回この大規模な調査・研究をなさって、いろいろ周りから言われたりしていると思いますが、その勇気。それから批判をするのは簡単ですが、じゃあ、お前やれるのかと言われると、なかなかできないわけです。とても素晴らしい取り組みだと思います。その上で、議論したり批判が出たり再反論したりのキャッチボールをしながら先に進めていくものだと思います。邦博先生がおっしゃったような、聴覚障害児が幸せになるにはどうしたらいいか。そのキーワードは非常に大事だと思います。

 中井先生が、多様なニーズに応える聾学校でありたい。一人ひとりの子どもたちのニーズに丁寧に応える聾学校でありたい、というお言葉も、今のキーワードにつながるだろうと思います。齋藤先生のお言葉の中で印象に残ったのは、生活言語から学習言語にということです。まず勉強ではなく、まずは生活の中での経験、情動的な部分も含めて、いろんな楽しい豊かな経験をして、その中で身につけていく。そういうところに手話の意味合いも出てくると思います。

 今日の5人の先生の共通テーマは、おそらく2つ。1つは、手話の部分を含めて今後、調査ができるといい、ということと、何のための教育か。子どもたちの幸福実現のために。この部分が共通キーワードだと思います。

 すいません。森さん忘れてた。森先生もいろいろ言われていましたけど、ご指摘の中で、森先生は私と同様にずうずうしいというか、一番クリアなのは、日本語力と言語力は違うということ。レジュメにあったことですが、スペイン語を母語にしている子どもたちが英語を学ぶ時に、英語が苦手だったらどうするかということ。スペイン語を通して英語を学ぶのではないかとおっしゃっていました。母語、マザー・タングとしての安心できる拠点が大事だと思います。文法も大事だけど、我々が中学で英語をやるとき、大概、英文法は嫌いです。母語としての日本語があって、その上での英語です。もし日本語について幼稚園ぐらいから、あなたのしゃべり方、文法はおかしいと言われたら、おちおちしゃべれません。そういう気持ちに、聴覚障害児をさせない。安心して楽しい経験をする。そうした斎藤先生がおっしゃったような生活言語を豊かに身につけることが、おそらく武居先生や中井先生の言われる、何のための教育か、どうやって幸せにつなげるかにつながっていくと思います。今後の展望としては手話も含めた大規模調査をしていくこと。それから、何人かからご指摘のあった、12歳以下の発達年齢の子どもたちの追跡調査などが重要でしょう。さらに大沼先生のクリティカルパスを導入して、児玉先生の言われたように、親御さんが安心して相談できる、いろいろな情報をニュートラルに提供できるシステムができるといいなと思っています。

大沼/みなさんの頭の中で継続していただいて、閉じたいと思います。

 今日は邦博先生はじめ4人の話題提供の方々には、思い切った話をしていただき助かりました。ひょっとすると、これはまた日本の聴覚障害児教育の転換になる議論になる可能性があります。未消化部分があれば、私どもにおたずねいただければ、個々の講演者に取り次ぎます。どうぞ、引き続きご検討ください。以上で今日のシンポジウムを終わります。ご苦労さまでした。