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ALADJINを聴覚障害児教育の領域から読み解く

手話学の立場から

武居 渡 先生(金澤大学)

武居 渡先生の写真

武居 渡先生

図4(クリックで拡大)

武居渡先生図4

 私は手話を研究する立場でお話をしたいと思います。調査に参加した生徒の3分の1くらいが手話を主に使っています(手話や指文字が友達とのコミュニケーション)。残りの3分2が音声を使っていることがわかりました。どの学年も1対2の割合でした。手話使用児と、音声をメインで使用する子を比較すると、音声メインの子の方が成績が高い結果が出ています。一方、小学校5〜6年くらいで、この比較の値が小さくなってくることもわかりました。この検査で求められるコミュニケーション力は、小5になれば、音声、手話使用児どちらも達成されることになります(図4・PDFが開きます)

 全体をとおしても音声メインの子と手話メインの子では、音声メインの子の方がスコアが高い。だからといって音声での指導効果が高いわけではないことに留意する必要があると思います。音声のみでコミュニケーションがなかなかとれず結果的に学年があがってから、手話を使っている子はいますが、手話から音声メインにした子はほとんどいません。手話使用児にはいろいろな子が含まれています。手話使用児は、手話習得後、その力を使い日本語の読み書きをどれだけ伸ばしていくかの指導を考えていくわけです。最終的にはキャッチアップするとしても、手話をつかうと、少し遅れることになるので、その意味でも予想を超えることではなかったと言えます。

 日本語力は、聞こえない子どものQOLを高めることに貢献します。これは間違いない。

 でも日本語力だけで幸せに生きられるわけではありません。かつての口話法で高い日本語力をえた人たちが、社会、大学にでてアイデンティティの危機を経験し、手話にであい、学び直し、ろう者であることを、再発見して、ろう者のアイデンティティを確立し、社会で活躍する人たちがたくさんいたと思います。その意味で聞こえないことを、どう考えるか、これは言語力だけでははかれない、その先にあるものと考えます。その意味で戦略研究の結果をふまえて、障害認識、アイデンティティも合わせて考えないと、すべてを犠牲にして言語力をあげることに力をついやしてしまうことになりかねないと思います。