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ALADJINを聴覚障害児教育の領域から読み解く

質疑応答

大沼直紀先生の写真

司会:大沼直紀先生

大沼 直紀/質疑応答に入ります。武居先生から、邦博先生に対しての質問、何かありますか?

武居/私は研究にも関わっていた者なので直接邦博先生に質問ということはありませんが。

 森先生のご意見に対してです。常に正論です。手話の評価法がまったく開発されていないのは、私も戦略研究を通して、必要性を強く感じました。森先生の批判は、教育に関わる手話研究者に向けられたものだと、強く受け止めています。一方で、文法理解のほうは作りましたし、明晴学園でも手話評価テストを作り始めているので、その必要性は認識され始めていると思います。

福島 邦博/ALADJINの評価を、どういう手段でやるかに関しても武居先生とかなり議論してきました。なるべく検査自体は手話でも実施できるものを選ぼうというコンセプトで集めました。それでも、これで見られるのは、手話を媒介として使った日本語能力テストしか無理だという議論になりました。

中井/手話と日本語の2言語を育てる立場です。今回の調査で日本語の評価や分析されたことは現場として大変参考になりました。しかし、手話の評価についてはこれからの課題だと思います。両方のアセスメントができるようになり、子どもの特性や能力を把握して指導に生かせるようになればと思います。

斎藤/もっと大きな問題は、日本語でしゃべる、また、手話でしゃべる場合、(話者が)言いたいことと言葉がどれだけ結びついているかの研究が難しいことです。今後、手話の能力の評価をすることも視野に入れていくとすれば、音声言語、手話の双方について、産生能力の評価、それももう少し試験場面でないような評価法、自然の状況に近い評価法が広まればいいと思います。

大沼/森先生、何か追加のコメントはありますか?

森/厳しい話ばかりして、大変申し訳ありませんでした。皆さんが私のいったことは正論であるとおっしゃってくださいました。人間関係、しがらみなどが特に無い状態だったので、言いたいことが言えました。聴者はろう者に比べて、しがらみにこだわる面があります。手話ですと、成人ろう者にたくさん会えます。成人ろう者は手話言語力の高い人がたくさんいます。そういう方にお願いして、研究に協力してもらう。手話のドメインまで降ろしたレベルでやっていくことが、できるのではないかと思います。これまでの手話研究は、ボランティアにお願いすることが多かったです。しかし、そうではなく、報酬を支払い仕事として依頼する。そうすれば、音声言語のドメインを含めた同様の試験が手話言語でもできると考えます。音声の研究成果と、まったく同様に手話でもやっていけると考えます。

大沼/ありがとうございました。せっかくですので、フロアからのご意見などもお聞きしたい。

会場/大塚ろう学校のMです。質問させていただきます。邦博先生にうかがいます。この調査は、20年、30年前に同じような大がかりの調査がもしあれば、今回の調査と比較して有意義なものがでてくる。今回は手話がメインの子ども、音声中心の子どもという中、結果として大雑把だが、音声中心の子のほうが、少し結果がよかったということです。
 20~30年前と比較をすればよいが、調査が実際にはないですが。私なんかは実感として、以前は口話だけ推奨していたろう教育の時代では相当低かった。今は、現場の人間としてかなり底上げされてきた実感があります。その中での今回の調査結果です。今後5年、10年、節目で同様の調査を継続してほしい。現場にこの調査、ALADJINをやれというのは、実際は無理だと思います。たぶん、どんなによいことを言われても、現場でというのは余裕がないと思います。それも言い訳ですが、それも含めて、5年、10年、なんとか大がかりな調査を森先生の指摘の注意も含めてやっていけば、すごく日本の聾教育のよい調査の継続になると思います。

福島 邦博/今回やらせていただいて、いろんなパイプができました。いろいろなところとできたので、そういうパイプは、コンソーシアムみたいな形で残しつつ、M先生がおっしゃるようなチャンスがまたできたときに、いろんな施設が有機的に協力しながら、聞こえない子どもたちのために何かできないか。時を待ちたいと思います。

大沼/フロアから、他に?どうぞ。

会場/Kと申します。当事者として、また看護師としても働いています。
質問させてください。今回の対象者の選定について。福島先生70dBとして対象者を仕切っていますが、医学的モデルだと思います。実際には70dB以下のかたの困難が非常に大きいと当事者との関わりの中で実感しています。今後、同様の調査がされるとき、70dBに満たないものの対象を含めるのかご意見うかがいたい。

福島 邦博/率直に言えば、今後できる見通しは全然ありません。ただ、70dBより軽度の難聴の方にたいする調査は、岡山では既に実施をしています。岡山県では、聴覚障害児童に限って、軽、中等度の難聴のお子さんにも補聴器の助成をする。身体障害者手帳がなくても補聴器の助成をする制度を始めています。その制度の効果を調査するための布石として、現時点での軽、中等度の難聴のお子さんにもALADJINの仕組みで調査し、数年後どんなふうに変わってくるかを今度は追跡調査のデザインでやっていくつもりです。

大沼/分かりました。最重度を対象にした研究ばかりではない方向でやろうと、軽・中等度を対象にしたものを若手でやっています。去年まで続いていた横浜国大の中川教授が学芸大のチームも巻き込んでやっていました。これも、軽・中等度です。軽・中度の関心が深くなっています。その中で対象者に対する広がりも期待すべきだという気がします。

会場/難聴児の母です。残念に思いましたのは、親の視点が抜けているところだと思います。私たち親としては、なんとなくやばいな、と思いながらもうちだけだと思っていたことが、ALADJINの評価で大きな枠で明らかになり、数字として共通の話題・問題として出てきたということで非常に意義を感じています。評価の問題と、それからしんどいとわかったところのてこ入れの方法の研究もなさるということですが、そちらの研究の発表のタイミングを教えて下さい。

福島 邦博/この10月にまたもう1度、厚生労働省に評価の報告をします。その時までには、論文にはしようと思っています。もしも予算等がとれたら、「介入プログラム手順書」を作って、日本語の弱いところに応じて、どんな助け方をすればいいかを、ある程度、マニュアル化していく。それも公開していかねばならないと思っています。

大沼/他に、フロアからご意見・ご質問、ないでしょうか。

会場/トライアングル金山記念聴覚障害児教育財団の児玉です。現在、福島先生の研究室で大沼先生と一緒に様々なお子さんの教育相談を受けています。人工内耳の問題です。今日もいろんな専門家からの話がありましたが、現実に親の抱えている問題の深刻化、そして1歳の段階で、モードの選択を迫られる現実があります。診断の時にすでに親御さんたちがモードの問題を悩んでいることについて、医師という立場から、どうお考えになるかお話し下さい。

福島 邦博/とても難しい話です。戦略研究で、全国の様子を見ていくと、先ず現状は、結局、最初に行く組織がどこかでずいぶん大きな偏りが出ていると思います。岡山は岡山なりのやり方でやっています。すると、岡山のバイアスがかかります。金沢は最近、そういうのを含めたシステムを作っておられるので武居先生に助け船を。

武居/お答えができるかどうかわかりませんが。金沢も療育システムに関しては、難しい地域でした。聴覚スクリーニングが浸透して、石川県では、95%が新生児スクリーニングを受けている状況です。確定診断がでた後で、機関を選ぶときに、行った先の方法にどっぷりつかることになるので他の選択肢がみえなくなり、それに気づくのが10~15年先になってしまう。石川県では、確定診断から療育開始までの間に、ボランティア、聞こえの相談支援センターをつくりました。私と耳鼻科の先生、言語聴覚士の先生2名、合計4名は、療育機関にどこにも関わっていません。どういう機関があるのかを平等に情報提供します。選択ができるまでには、聞こえの発達とは、これからどのように子どもが成長していくのか、聞こえなくて将来はどういう仕事ができるのか、選択できるくらいまでの知識を身につけてもらう。そういった説明をして、選んだ療育機関に対しては背中を押すことをやっています。それは小さな石川県だからできる。東京など、機関のたくさんあるところでは難しいと思います。難しい問題だとの認識は共有しています。

大沼/ありがとうございました。