福島研究室/バリアフリープロジェクトFUKUSHIMA Lab. Barrier Free Project

マンスリーレポート

福島智の仕事を支える指点字通訳者たち

 わたしたちの研究室の大きな特徴の一つとして忘れてはならないのが、障害のある研究者の研究活動を支える支援スタッフの存在です。そこで、今回は、「福島智の研究環境」と題されたマンスリーレポート#001でも少し触れた「指点字通訳者」たちにスポットライトを当て、彼女たちの仕事ぶりについてご紹介します。高いスキルを持った彼女たちですが、実際の通訳場面ではいろいろと悩まされることもあるようです。

1.3人の通訳者たち

*:今日は、大学での福島さんの仕事を支えている3人の指点字通訳者にお集まりいただきました。まず、お一人ずつ、ご自身の指点字通訳者としての「通訳歴」のようなものを、簡単にお話していただけますか?

A:「いつから通訳を始めたのか?」と聞かれるとすごく難しいんですが、盲ろう者に初めて会ったのは、わたしが大学1年生の終わりです。それから、うーん(笑)、その頃から、もう、日常生活において盲ろうの人と一緒に出かけたりすることはあったので、指点字通訳を始めたのはその直後ぐらいからだと思います。

*:ということは、Aさんはその時にはすでに点字を知っていたんですね?

A:大学で点字のサークルに入っていたので、点字は一通り打てていました。最初は手打ち ★1)だったんですが、後からライトブレーラー ★2)という点字タイプライターを使って点字を打つようになりました。でも、その頃に出会った盲ろうの人たちのほとんどは(ライト方式ではなく)パーキンス方式 ★3)で指点字を受ける人が多かったので、徐々にパーキンス方式で打てるように練習しました。だから、盲ろう者に対して指点字通訳のようなことをし始めたのは、大学2年、3年ぐらいの頃からかな。その頃から、福島さんとは知り合いで、盲ろう者の集まりなどで会って話をしたり、たまに通訳をしたりすることもありましたが、ここ(先端研)での仕事として福島さんの通訳を始めたのは2002年の4月からなので、今年で6年目になります。

B:わたしは福祉専門学校の2年生の時の授業で、盲ろう者に初めて会いました。そして、その年の10月に通訳実習のようなことをやらせてもらいました。「(NPO法人東京盲ろう者)友の会」 ★4)のチケットをもらって、通訳者として初めて働いたのは、その年度の終わりで、わたしが専門学校を卒業するくらいの時だったと思います。福島さんの通訳者として働き始めたのは、それから約1年後、今年の2月からです。

C:わたしが福島さんと出会ったのは、福島さんが大学生、たぶん2年生か3年生の頃だと思います。わたしは学生時代、視覚障害の大学生の会というものに入っていたんですが、そこに福島さんが入ってこられたんです。その会のメンバーの中には点字を知ってる人が多かったので、定例会の時などは交替で指点字の通訳をしたりしました。もちろん、福島さんと指点字で直接話をしたりね。だから、わたしはこの視覚障害の学生の会で、福島さんと指点字に出会ったことになります。その後、福島さんは大学院に進学されたんですが、それが教育学部だったので、わたしが「おもしろそうだなー」と言ったら、「じゃあ、遊びに来てみれば」って福島さんに言われて(笑)。それで大学院の授業を聴きに行ったら、気がついたら福島さんの通訳をしてた、みたい、です(笑)。

*:Cさんは、福島さんが学生の頃から指点字通訳をされていたんですね。学生の時の通訳と大学という場での通訳とでは、違いがあると思うのですが、Cさんはどのような点で大きく違っていると感じますか?

C:それは、責任の重さというものが決定的に違いますね。学生時代は、やっぱり日によって、内容によって、また通訳者の技量によって、「今日の話しはよく分からなかったな」っていうことがあるんですよね。わたし自身、そういうふうに言われたこともありますね。ただ、学生の時には、「分からなかったなー」で済むんですね。だけど、大学の先生になってからは、「今日の教授会は分からなかったー」では済まないし、「今日のプロジェクト会議は、みんながどんどん発言して、僕はよく分からなかった」というわけにはいかないですよね。会議で話された内容を理解した上でどう判断するかを決めるわけなので、会議の内容について、福島さんは自分が理解していなければならないですよね。内容を理解したところから福島さんの仕事が始まるわけです。だから、「なんか分からない」というふうに受け流すことはできない。そういう責任の重さというものを感じますので、通訳者としても、学生の時と大学の先生になってからとでは、責任の重圧感というか、そこが一番違いますね。

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★1)点字盤に点字用紙をセットし、点筆という針のような形状をした筆記具を用いて、1点1点紙の裏から点を打っていく方法。手打ちでは、点字を上から下に打っていくため、下向きに点が出る。つまり、読むときとは左右逆転して点字を打っていかなくてはならない。
★2)点字タイプライターの一種。ライトブレーラーでは、点字盤同様、上から下に点が打ち出されるため、キーは右手の薬指が1の点、中指が2の点、人指し指が3の点、左手の同じ指がそれぞれ4点、5点、6点に対応している。また、ライトブレーラーは、点字を打っていくに従って、本体がカニの横歩きのように左に動いていくので、通称「カニタイプ」とも呼ばれる。
★3)ライト式とは異なり、パーキンス式の点字タイプライターでは、点が下から上に向かって打ち出される。このため、キーは左手の人差し指が1の点、中指が2の点、薬指が3の点、右手の同じ指がそれぞれ4点、5点、6点に対応している。
★4)視覚と聴覚に障害を併せ持つ「盲ろう者」の自立と社会参加の促進を目的に、盲ろう者福祉を増進する事業を行っている団体。盲ろう者に対し、通訳・介助者のコーディネートや派遣を行っている他、交流会の開催などを定期的に行っている。ホームページは、http://www.tokyo-db.or.jp/

2.止めない、「というか、止められない」

*:AさんとBさんは、福島さんの通訳者になる前に、ボランティアや「友の会」の仕事として、他の盲ろう者にも通訳をしていたということでした。お二人は、現在も、福島さん以外の盲ろう者に通訳をすることがあるそうですね。たぶん、福島さんに通訳をする時と福島さん以外の盲ろう者に通訳をする時の違いってあるんだろうなと思うのですが、お二人は、どういう点で、違いを感じていますか?

A:「略字」 ★5)を使う、使わないの違い、それと、速度。やっぱり、福島さんのニーズとしては、聞こえてきたことをすべて、可能な限り通訳して欲しいということがあるんですね。だから、福島さんへの通訳では、略字を使って、可能な限り、聞こえてきたことを伝えるというのが原則です。それに対して、福島さん以外の盲ろう者の場合、指点字を受ける速度も全然違うし、略字を知らない人の方が多いので、伝えられる内容がすごく限られてきます。たとえば、話しの要点だけとか、一番大事なことだけとか、その時に必要なこと、その人が一番興味・関心がありそうなこと、そういうことを中心に伝えるって感じですね。

B:わたしも、速度の面で一番違うなと思います。福島さんの場合、「健常者」ペースで通訳するんだけど、他の盲ろう者の場合は、盲ろう者のペースにできるだけ合わせてもらったスピードで通訳するという感じです。だから、通訳者の方から相手の発言を止めたりとか、「ゆっくりお願いします」とか言ったりもします。でも、福島さんの場合は、「云わないでくれ」みたいな(笑)感じがあります。「云わないで」って言われるわけではないんですけど、どちらかというと、こっち(通訳者)が頑張って指点字を早く打って、話している人のスピードに追いつく、という感じですね。

*:確かに、3人が福島さんに通訳している場面を見ている限り、通訳者の方から発言を止めたり、「もう少しゆっくりしゃべって下さい」と言ったりすることは、ほとんどないですよね。もちろん、福島さんの読み取り速度が速いからということもあるんでしょうが、とはいえ、「どうしても、話すスピードが早すぎて追いつけない」っていう時があると思うんですよね。そういう時、通訳者の方から「割り込み」をしたりとか、場の調整をしたりすることってあるんですか?

C:会議では・・・どうでしょうかねー。

A:教授会では絶対に止められない。

*:それはどうして?

B:「健常者主体」の集まりだから。

A:健常者が多い会議で、福島さんが会議の中心人物ではなく、一構成員に過ぎない場は止めにくいし、普段から「止めないでくれ」みたいなことを言われます。教授会とか、省庁関係の会議の場とかは、基本的に止めないですね。というか、止められないですよね(笑)。

C:唯一止めるのは、福島さんが発言する時ですね。ずーっと忠実に通訳やってると、福島さんは手を挙げられないですから、福島さんが発言する時は、無理矢理(笑)、通訳者と一緒に手を挙げて、意識的に止めます。

A:たまに一緒に手を挙げた状態で通訳している時もあるよね(笑)。

*:(笑)。ありますね。見たことあります。

C:だから、発言を止めるのはそういう時ぐらいですね。あと、福島さんがどうしても止めたい時は、福島さん自身が発言することで、会議全体の流れを止めて、自分で確認するんだと思います。あと、わりと発言しやすい会議の時だったら、福島さんに聞き返してもらうようにするっていう方法を採るかな。通訳者が聞くんじゃなくって、福島さんに聞いてもらうっていうパターンの方が多いかな。

*:じゃあ、指点字通訳者が主体的に判断してとか、話す速度に通訳が追いつかないという理由で止めることはないんですか?

C:ないですね。少なくとも、Aさんの言ってたような、公的な、福島さんが「主役」の会議でない場合は、ないですね。

*:それって、指点字通訳者にとっても、福島さんにとっても、相当なストレスですよね。

C:通訳者もそうですけど、福島さんはすごく大変だと思います。

A:あと、ゼミとかもね、公的な場ではなくても止めにくい。やっぱり、ゼミで議論が白熱してる中で止めちゃうと、流れとか勢いが盛り下がっちゃうかなーと思ってしまう。場の雰囲気を考えると、本当は速すぎるから止めたいんだけど、ちょっとためらっちゃうところがあって、「仕方がないから要約して伝えるかー」って判断して止めないっていうこともありますね。

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★5) ここで「略字」と呼ばれているのは、指点字の通訳を迅速に行うために考案されたもので、もともと福島さんが学生のころに周囲の支援者と福島さんとで考え出したもののこと。たとえば、ある前置記号(点字の4、5、6の点)を書いて、その後に「か」と書けば「考え」、「も」と書けば「問題」、「あ」とかけば、「ありがとう」、「ご」なら「ございます」を表すなど、語尾表現も含め、200種以上考案されているが、実際には100種前後が用いられている。

3.「実は、悩みです」

*:そうかー。でも、単に早口な人っていうのもいますよね。わたしが耳で聞いているだけでも、早口な人とか。そういう人に対しては、「もっとゆっくりしゃべって」って言ってもいいような気がするけど。

C:「だれだれさんは早口な人だ」ということは、ある時点で福島さんには伝わるんですね。だから、福島さんの方から言いやすい時に(笑)、「もう少しゆっくりお願いします」と言ってもらえますが、

A:でも、最初の10分、15分くらいで忘れちゃって、また早口になるけどね(笑)。それに、議論が白熱してくると、どうしてもみんな自然と早口になっていっていくから、それを止めるのはやっぱり難しいし、「ゆっくりお願いします」って言うことも、しにくい。ただね、たとえ早口でも、文節と文節の間にちょっとした間があると、だいぶ違うんですよね。ちょっとした間の間になんとか追いつくし、次の言葉を聞き取るだけの余裕が出てくるので。だけども、まったく間がなく、よどみなく(笑)、早口で話す人の通訳っていうのは、一番しづらい、といつも感じてます(笑)。

B:(笑)

*:え、誰? 誰?(笑)

C:まあ、よどみないのはXさん。

B:(笑)

A:Xさんはすごく穏やかな口調だから、単に聞いているだけだと、ゆっくりしゃべっているように聞こえるんだけど、実際に通訳をしてみると、実は速い。ほんとによどみなく、スーッといくから(笑)、わりとXさんは大変だよね。

C:で、わりと、中身が濃いことと面白いこととを織り交ぜ、スーッと続くからね(笑)。

A:要約もできないし、みたいな(笑)。

*:先ほど会議での通訳という話しが出てきたので、もう一つだけ質問させて下さい。わたしはここで働き始めて今年で3年目なんですが、通訳者を見ていて一番大変そうだなって思うのは、会議の時とか、複数の人が話している場面なんですね。福島さんと誰かもう一人とで話している場面というのは、相手の人も福島さんにきちんと伝わっているかどうかってことをある程度は意識しながらしゃべるだろうから、話すスピードを少しゆっくりにしたりとか

A:しない人もいるけどね(笑)。

*:(笑)。しない人もいるかもしれないけど(笑)、少なくともね、しゃべっている方もゆっくりしゃべろうと意識しやすいだろうし、もし相手の言っていることが分からなかった場合、通訳者の方も確認したり介入したりしやすいのかなって想像するんですね。でも、会議とかだと、発言のスピードが速くなるだけではなくて、発言する人の数も多くなるし、同時に何人かの人が「ああでもない、こうでもない」って言ったりすることがありますよね。会議などでの通訳で一番大変なのはどんな時ですか?

C:たとえば、プロジェクトの会議とか少し小さめの会議を例にしますと、全体で議事進行している時はいいんですよ。でも、意外と苦労するのが、たとえば、KさんとIさんが「ここは、こうだったっけ? ああだったっけ?」と、二人で会話をしている時ですね。こういう場合、二人の会話とは別に会議全体での話しは緩やかに進行しているので、そうした部分的な会話を福島さんに伝えた方がいいのか判断が難しいですね。部分的な会話は、全体に対してとか、福島さんに対して語られているものではないんだけど、聞こえちゃったし、それに、小耳に挟む単語から判断すると福島さんが聞きたそうなことでもありそうだし、でも、会議全体では話しが続いてるしって(笑)。そういう時が一番困りますね。たとえば、出版社の人が何人かでいらして、福島さんと打ち合わせをしている時に、向こうのお仲間同士で「ここはどうだっけ」とか、「こうでいいんだよね」とか言ってる場合には、指点字で「相談してます」というふうに伝えられるんで、それは単純なんですけどね。プロジェクトの会議の時には、意味のありそうな部分的な会話が多いので(笑)、実は、悩みです。

A:わたしは、会議の場で、Hさんがボソッという一言がいつも聞き取りにくい(笑)。

一同:(笑)

A:で、きっとHさんがボソッと言ったことというのは面白いことで、周りもうけてるので、福島さんにも伝えたいんだけど、「あー、聞き取れなかった(ため息)、何だったんだろう」ってことが多くて。そこで、Hさんに「えっ?」って聞くのに、Hさんから「え、いいです。伝えなくていいです」とかって言われちゃうと、「もう。いいですじゃなくって、場を共有しようよ」って感じる時があります。

C:Hさんの気の利いた一言がね(笑)

A:それは3人の中でも、「Hさんの言ったこと、面白いんだろうけど、聞き逃しちゃうことが多いよね」っていう話しをしてて。それで、「そうだ! Hさんの正面に通訳者が座れば、いいんじゃないか」みたいな話しをしていて。やっぱり、福島さんはそういう一言を聞きたい人だなって思うから、それはもう、できるだけ伝えたいんだけど、うまく聞き取れなくて、「あーあ」って思う(笑)。

*:「えっ?」って聞き返しても、「通訳しなくていいです」って言われちゃうしね。やっぱり、通訳者としては、「これは通訳しなくていいです」って言われるのは、困りますか?

C:困りますね。

A:聞こえてきたことを伝えるのが原則なので。他の先生、たとえば、S先生とかと話しをしていても、「これは伝えなくていいから」って(笑)、よくおっしゃるんですけど、でも、ちゃんと伝えないと。福島さんは通訳を受ける時に両手をテーブルの上に置いてるから、たとえば、S先生が足を組み替えようとして、その足がテーブルにバーンとぶつかった時とか(笑)、振動が伝わるんですね。そういう時、「いまのは何?」って福島さんに聞かれたら、「S先生がテーブルに膝をぶつけた」って伝えるんだけと(笑)、S先生には「そんなことまで伝えなくていいよー」って、よく言われるんだけどね(笑)。

4.「見えたもの、聞こえたもの、できる限りすべて」

*:では、次に「通訳者は何を伝えているのか」という点について、いくつか質問させて下さい。おそらく、福島さんと話したことがある人なら、指点字通訳者は自分の話している言葉を指点字で福島さんに伝えてくれているんだなってことは分かると思うんですね。でも、指点字通訳者って、それ以外にもたくさんの情報を福島さんに伝えていますよね。話された言葉以外に、どんな情報を伝えていますか?

B:見えたもの(笑)

A:見えたもの、聞こえたもの、できる限りすべて(笑)。

一同:(笑)

B:福島さんの通訳を始めた時、「実況中継をして下さい」って言われましたよ。

*:「実況中継をしているつもりで状況説明をして下さい」ということかな? それは、指点字通訳の練習としてですか?

B:ううん、そうじゃなくて、常に。

A:常に指を動かしていないといけない(笑)。指を止めてはいけない。

B:沈黙を作ってはいけない。

A:そう、沈黙してはいけない。

*:じゃあ、見えたもの、聞こえたものを常に伝えているという状態なんですか?

一同:(大きくうなづく)

*:それでも伝えられる情報には限りがありますよね。さまざまにある情報の中で、みなさんは、どんな情報を優先して伝えているんですか?

A:たとえば、一つの空間に、メインで話しをしている人以外にも何人か人がいたら、いま、ここにどんな人がいて、どの辺りに座っているかとかいう情報を、まず伝えますね。あと、何か会議をやっていて、途中で誰かが入ってきた、また逆に誰かが途中で抜けたとかっていう場合には、必ずそれを伝える。できる限り(笑)。

B:盲ろう者が周りに誰がいるか分かんないで、その場にいる人の悪口を言っちゃったとしたら、もう、終わりじゃないですか(笑)。

*:ええ、分かります。「途中で誰かが入ってきた」という情報が福島さんに伝わっていないと、福島さんにとっては、そこにいないと思っていた人が実はいたという状況が生まれてしまう。

A:逆に、「誰かが途中で抜けた」という情報が福島さんに伝わっていないと、福島さんはその人がいると思って、その人に話しかけてしまい、その時に初めて「いないよ」ってことになる。それはまずいので、誰かが部屋から出て行ったら、出て行ったっていうことを伝えなきゃいけない。同じように、途中から部屋に入って来た人についても、そのことを伝えないと、福島さんはそこにその人がいるのを知らないままになってしまう。後からその人がいたんだってことを知った時、「あ、いたんだったら、話したかったのに」ということがあると思うので、何か変化があれば必ず伝えるっていうのが鉄則です。

C:いま、ここに誰がいるかとか、誰が出て行ったかというのは一番の、最優先で、福島さんがわたしたち通訳者に一番頻繁に聞くのが「いま、誰がいますか?」っていうことと、「誰がどこに座ってますか?」ってこと。それは、もう、一日何回聞かれるか分からないぐらい(笑)。

A:「さっき説明したのに。変わってないのに」と思っても(笑)、聞かれるたびに答えます。

C:エレベーターの中にいる時でも、そこに誰がいるのかを伝えますね。

*:福島さんにとっては、それが重要な情報だということですよね。

C:ええ、そうです。でもね、実際には聞こえてきた言葉を伝えることにかなりの時間をとられちゃうので、状況説明にとれる時間て、ほんとわずかなんですね。そこで優先するのは、やっぱり、人の情報。あとは、たとえば、お話ししている最中に「電話がかかってきた」とか、相手の人が「携帯を気にしてる」とか、「なんか、携帯見てる」とか、「携帯、鳴ってる」とか(笑)、「(携帯が)ブルブルしてる」とか、あと、相手の人が「本を見ながら話してます」とか、「いま、資料を見ています」とか、「誰かが何かを渡してる」とか、福島さんが話しをしたい相手は「いま、名刺交換をしています」とか、そういう、福島さんに一番関係ありそうな周りの人の情報を、次に優先しますね。

*:今の例だと、「いま、名刺交換をしています」っていう情報は、福島さんが相手に話しかけるタイミングなんかと関わってくるのかなとちょっと想像したりするんですが、「資料を見ています」という情報の場合、それがどういう意味というか、メッセージになるんですか?

C:まず、福島さんが資料を持って行った場合には、その資料が相手に渡っているかどうか、その資料を相手がちゃんと見てくれているかどうかってことがあります。また、福島さんが持って行った資料じゃないものを見ていたとすると、「何か書類を出して見てます」っていうことが、福島さんにとっては「われわれは把握していないけれど、何か見ながら話してますよ」っていう情報になるんですね。状況判断の材料をひとつでも多く欲しいのだと思います。たとえば、誰かと話している途中で相手に電話がかかってきた時、相手の方が電話に向かって喋っている言葉を通訳して欲しいと言われることがあります。相手が電話でどんな会話をしているかというリアルタイムの情報が福島さんにはとても大事なのだと思います。

*:話している相手の表情を伝えたりすることもあるんですか?

A:伝えたりする時もあります。

B:相手が怒っている時は伝えます。

A:「あ、機嫌悪そうに言ってる」とか。あと、冗談か冗談じゃないかは、聞こえてきた言葉を指点字で打っただけじゃ分からない時があると思うので、たとえば、冗談で笑いながら言ってれば、「笑いながら言ってる」ってことを伝えたりしますね。あと、「ちょっと機嫌が悪そう」とか(笑)「ムッとした感じ」(笑)とか。目で見て明らかに(笑)分かるような表情とかは、伝えますね。

*:Bさんは、さっき「怒ってる時は伝える」って言ってましたね。

B:うん、でも、怒ってる時ってあんまりないですね(笑)。

*:(笑)。でも、そういう時は、「あ、伝えなきゃ」って思うんですね。

A:無表情の人とかは困ります(笑)。

C:一番困るよねー(笑)。

A:無表情、無反応の人。福島さんが質問しているのに、聞こえていないのか、聞こえているけど答える気がないのか、よく分からない時は、困る。

*:そういう時は、どう伝えてるんですか?

A&B:「反応なし」(笑)

A:とか、「無表情」って(笑)。

*:Cさんはどうですか? 相手の表情とか口調とかを伝えたりもしますか?

C:声の強弱とか口調は、わりと指点字を打つことそのものに、たぶん表れているんじゃないのかなって思うんですね。わたしは弱視なんで、顔の表情は、ほとんど、よっぽどのことがない限り分かんないんですよね。「大笑いしてる」とか「大泣きしてる」とかじゃない限り。だから、顔の表情については間違って伝えたらかえってややこしいから、あんまり「機嫌が悪い」とかいうことは言いませんけど、言葉の語調は指点字で出るようですね。怒ってる時は指点字も強くなるし、関心なさそうな時は、なんかテレッとした指点字になるというか(笑)。

5.指よりも「肩とか、腕とか、腰」

*:すごく素朴な質問なんですが、ずーっと手を動かしていて、手が疲れたりはしないんですか?

一同:(笑)

*:いやね、これは、きっとみんな思っていますよ、「たぶん、疲れないためのコツとかがあるに違いない」と(笑)。たとえばね、指点字通訳って、だいたい二人一組になって交替でやってますよね。

C:そうですね。実は、学生時代は一人で通訳をやっていたんですよ。丁々発止なゼミがいっぱいあって、しかも二コマ続きというのを、一人で通訳してましたから、負担という面では、それは、二人一組でやるようになって、格段に楽になりましたよ。

*:やはり、指が疲れるんですか?

C:体も疲れるんだけど、やっぱり緊張しますよね、ずーっと一人でやってると。それと、指っていうかね、肩とか、腕とか、

A:体の横の筋とか(笑)。

C:腰とかねー(笑)。

A:通訳してる時って、体を右か左に沿るので、不自然な姿勢になるじゃないですか。だから、長時間同じ体勢でやってると、伸ばしている方の筋とか、肩とか腰とかがね(笑)。だから、会議が一日続いたりする時は、左右どちらかに偏り過ぎないように、もう一方の通訳者と座る場所を交替したりします。

*:でも、通訳者が一人しかいない、という場合もありますよね。そういう時は、どんな工夫をしているんですか?

C:一人の時は、途中で福島さんと席替えをします(笑)。

B:あ、します。左右交替。長時間同じ体勢で通訳を受けていると、福島さんも体に違和感が出てくるんじゃないですか、きっと。

*:これも素朴な質問なんですけど(笑)、二人一組で通訳する場合なんですけど、何分やったら交替っていうふうに、時間で交替しているんですか? それとも、話しの流れですか?

A:通常は20分くらいで交替するという、なんとなくのきまりがあるんだけれども、実際には、話しの流れかな。一つの話しが終わった時に30分くらい経っていて、ちょうど次の話題に移ったから、もう一人の通訳者に交替するとか。うーん、でも、福島さんの判断にもよるから。場合によっては、一人の人が1時間ぐらいずっーと通訳をやって、もう一人の人に交替したら、今度の人は15分で終わって、また元の人に戻ったりとかってことがあります。だから、通訳時間には結構ばらつきがあります。

C:手話通訳者の方が、わりときっちり時間で交替しますよね。

*:他の盲ろう者の場合はどうですか?

B:盲ろう者にもよりますけど、だいたい15分で区切ったり、20分で区切ったりします。で、時間がきたら、通訳者の方がこうやって(肩の辺りをトントンと叩いて)、「時間だよ」ってやるんです。

A:盲ろうの人が、あらかじめ、会議とかが始まる前に、「15分交替にしましょう」とか「20分交替にしましょう」とか決めているんですね。そういう場合は、通訳していない方が時間を見てて、時間が来たら、トントンって、「交替の時間だよ」って合図をして、交替するという感じです。

B:で、トントンって合図をすると、(盲ろう者の)手が自分の方にサーッと来る(笑)。

A:だけど、福島さんの場合は、基本的には福島さんの判断で、手が(笑)、来る(笑)。

C:福島さんは、だいたい交替する前にお茶を飲むんだよね(笑)。

一同:(笑)

*:あー、それで、自分の方に手が来るタイミングが分かるんだー(笑)。

A:それとか、時計をパカッって開けて、時間をみて、代わったりとかね。

B:あと、仁丹を口に入れたりとか(笑)。

C:(笑)。仁丹かお茶ね。

6.通訳者からのお願い

*:最後に、これは、指点字通訳者の方々から見てということで構わないんですが、たとえば、周りの人にこうしてもらえると通訳しやすいのになとか、こうしてもらえれば福島さんとの場の共有がもっと促進されるのにな、と感じていることはありますか?

C:みなさん、発言の前には名前を言いましょう(笑)。これは、会議の時だけではなく、普段からやっていただけると、わたしは助かります(笑)。

*:プロジェクトの内部には、「発言の前に名前を言う」というルールがありますね。

C:一応ね(笑)。

*:すみません。わたしも守っていません、時々。

A:たとえ知ってる仲間内でも、「最初に自分の名前を言ってから発言しましょう」というルールがきちんと守られれば、何人もの人が同時に発言したりとか、誰かの発言が終わる前に別の人がかぶって発言したりとか、そういったことが減ってくるのかなという気はしますよね。そうすると、だいぶ通訳しやすくなる。

B:やっぱり、一人ひとりしゃべって欲しいですよね。

A:あとは、福島智という、指点字という方法で通訳を受けている人間が同じ場にいるんだということを、常に頭の片隅に置きながら会議に参加してもらえればな、少なくともそういう意識を持っていて欲しいなと思います。



(聞き手:飯野 由里子)